考察:グリグリの確実な使い方
ビレー体勢はATCなどと同じ、決して手を離して止めるものではない

 今回の失敗をきっかけに長年(12年ほど)使い慣れて来た確保器グリグリについて今一度考えて見ようと思う。

 先ずはグリグリを使い始めた理由・きっかけだが、その前に我が家で使用してきた確保器についてちょっとふれておく。17年前今のスポーツ・クライミングを始めた当初は、やはりその当時もっとも一般的だったエイト環を確保に使っていた。もちろん始めはエイト環をそもそもの下降器として使った場合と同じロープの通し方をしてリードするクライマーの確保をしていた。しかしこの方法だとキンク(ロープの捩れ)がひどく、そのうちエイト環の本来ならハーネスに連結するためのカラビナを通す小さい穴のほうだけにロープを押入れて頭を出した部分にカラビナを掛けるという原理的には今のATC系の確保器と同じようにして使い始めた。また一時、その昔“豚ッ鼻”と呼ばれていた確保器を使ったこともあるが、確保器本体がロープ伝いに逃げやすく(ビレーヤーの体から離れていってしまいやすく)、その後は民族(山岳)資料館入りにしてしまった。そうこうしているうちに今はなき"岩と雪"148号(1991年10月号)でグリグリが紹介された。その紹介記事の中の「ビレヤーは両手を離すことさえ可能」「ハングドック攻撃を展開する場合などビレーヤーは実に楽」「ロープがキンクしない」などという宣伝文句に引かれはしたが、「11_ロープの場合は繰り出しがやっかい」などとも書かれていたし、そもそも機械(?)に命を託すのも気が引けたので、すぐに買おうとも考えなかった。でもそのうちD-manが生まれビレーヤーの足元でゴソゴソし出したので、ビレーの最中にも「両手を離すこと」が可能なグリグリを買ってみようということになった。で、使ってみるとまさにハングドックして粘る親の足元で腹を空かせて泣き出す子供にミルクまでやれるのである。確かにロープの繰り出しには慣れを必要としたけど総合的な使用感はすこぶる良く、その後今日まで使用し続けることになった。

 100パーセントの信頼度とは言えないまでも、今回の事件までグリグリのストップの確実さを疑ったことはほぼなかった。「ほぼ」と言うのは4年前にヨーロッパで長いルートを登るために70mロープを使い出した時、その当時はグリグリはまだ一般的には直径10_から11_のロープ対応とされていたのだが、70mロープの直径9.7_という細さに不安を感じたこともあったからだ。その後、径の細いロープがより一般的になるにつれてグリグリの製造元であるペツル社からも直径9.7_ロープでも使用可と公式に発表された。実際にはその発表以前に9.7_径のロープを使い出したのだが、もちろん使う前に急激に加重したりしてロープがブロックされることを自分達で確認したことは言うまでもない。その時、グリグリがロープをブロックした後、クライマーがロープを握ったりしてグリグリへの加重が少しでも軽減されると意外と簡単にブロックが解除されてしまう印象を受けたが、使用をためらうほどのものでもなかった。それにビレーヤーがクライマーと反対のグリグリ本体から下に出ているロープを放さない限り先ず問題はないと判断したのである。気がついてみると「ビレヤーは両手を離すことさえ可能」とあってもリードするクライマーが墜落した場合、必ずクライマーと反対側のロープを放すことはなかったのである。やはり積極的に「両手を離して」墜落を止めようなどとは実は考えたことはなかった、機械(?)を頭から信じることに不安を感じグリグリから下に出たロープ(クライマーと反対側)を無意識のうちに握っていたのである。

 今回の事件後、今更ながらグリグリの使用説明書を読んでみたが、墜落を効果的に止めるためには「クライマーと反対側のロープを下方に押し下げながら握れ」とあった。グリグリを使っていれば、例えば落石が頭に当たってビレーヤーがビレー不能に陥ってもグリグリのオート・ブロック効果でリードするクライマーの墜落を必ず止めることができると言われても、なにも積極的に両手を離して止めるものでもないのである。この辺りにクライマーの勘違いが起きやすいような気もする。現に長年グリグリを愛用する我が家でも、実は無意識のうち(エイト環を使っていた時のなごり?)にグリグリから下に出たロープ(クライマーと反対側のそれ)を握っていたにもかかわらず、「グリグリは両手を離しても止まる」という図式が頭の中に出来上がっていたのは否定できない。確かに「止まる」かもしれないが、クライマーの墜落衝撃がうまくカムに伝わらない場合も考えて、グリグリから下に出たロープを握ることによってカムが押し上げられる力を生じさせることにより、より確実にロープがブロックされるようにするべきである。

 最近ではロープが新品の時、またロープの表面加工の具合によってはグリグリのオート・ブロックが全く利かなくなってしまう、しまったケースを耳にはさんだことがある。また、ロープを繰り出すためにグリグリ本体を握る方法について強い危惧を抱き警鐘を鳴らす人もいる。いずれにしても100%の完成度の道具であっても使い方を誤れば安全ではなくなる。ビレーという行為が人の命に係わるものである以上、その方法・使用する道具についてより積極的に捉える必要があるのは言うまでもないのだろう。

 ロープはグリグリ本体の中心に位置するカム(赤丸の部分)を取り囲むようにセットされる。通常はクライマーが登るにつれてビレーヤーは矢印方向にロープを繰り出していく。クライマーがフォールした場合、急激な力が矢印方向に加わり、その力がカムを上方に押し上げ結果的にカムと本体の溝との間が狭まりロープを噛んでブロックする。
 グリグリから下に出ているロープに負荷がかかるだけでもカムを押し上げる力が生まれカムが効いてロープがブロックされる。
 できるだけ「グリグリから下に出ているロープから離さない」が肝心。(’できるだけ’と言うわけは、カムと連動するレバーを押さえてカムが効かないようにしてロープを送り出す方法もあるので。ただし、この方法を使う時間は最小限にするようにとペツル社のマニュアルにもある。)
 スムーズにロープを繰り出すためには、ロープを送る右手とロープを繰り出す左手のタイミングを合わせることが大切。
 「クライマーが落ちたら、グリグリから下に出ているロープ(写真中では右手)を握る」とより確実にブロックを効かせられる。
 クライマーが落ちた時、決して下側のロープを握る右手を離さないこと。
 クライマーがロープにぶら下がった時。
 グリグリ本体から下に出ているロープ(写真では右手で握っている側)はしっかり保持すること。
 クライマー側のロープ(グリグリ本体から上に出ている部分)は決して馬鹿力を出して握らないように。上方への力がうまくカムに伝わらず、カムが効かなくなる。(これが今夏、D-manがしてしまった失敗。おまけに下側のロープを握っていた右手を離してしまった。)
 いくら最悪の場合でも理論的にはオート・ブロックが効くといっても、これはやり過ぎ。
 ビレーヤーはクライマーの動きを絶えず見守り、グリグリから下に出るロープは極力放さないこと。
 クライマーがある程度上のほうにいったら、手によるロープの繰り出しよりもビレヤーが後退させた体を前方に進めることによってロープを送ったほうが不本意なブロックを避けることができる。

 ロング・ルートのオンサイト・トライとなると30分以上にわたってルートと格闘するクライマーを確保しなくてはならない場合も多い。確かにビレーヤーはクライマーの命を預かる以上、その間絶えず緊張し続けなくてはならない。しかし時間の経過とともについつい緊張感が緩んでしまう時もあるだろう。そんな時の不意の墜落にも対応できるグリグリはその短所をおぎなって余る確保器だと今夏の痛い経験にもかかわらず考えている。

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